平成10年度(1998年度)の調査研究を終えて
研究報告 「住宅更新と居住者変動に関する調査研究(1)」
―豊中都心ゾーン地域を対象に―1.問題意識と研究の目的
既に住宅市街地として成熟期に入った豊中市における今後の課題は、住宅や上下水道・道路などの社会資本のメンテナンスと有効活用と考えられます。とりわけ高齢化社会における「住まい」という観点から見ると、既存の住宅ストックを活用しつつ、高齢化に対応した建替え、リフォーム、住替えなど安定した生活を確保するための支援策や、新たに豊中へ住宅を求める若壮年層を受け入れる環境を整えることなどがまず挙げられます。
こうした政策立案には、住宅供給量の把握等マクロな視点に加え、供給された住宅にどのような世帯が居住し、また住替えているかといった、住民一人一人の生活に着目するミクロな視点、その双方から現状のメカニズムを把握することが必要と考えられます。
この調査研究は、市街地更新過程における住民の移動、家族の変容の実態把握を通して、その居住変動メカニズムを探ることにより、今後のまちづくりへの政策検討材料の提示を目的としています。
2.調査研究の方法
平成10年度(1998度)は都心ゾーン地域を対象とし、都心ゾーン内の地域特性を考慮しながら選んだモデル地区の過去30年間について、住宅・表札・居住世帯の変化について調べました。
研究委員として森本信明氏(近畿大学理工学部建築学科教授)、平山洋介氏(神戸大学発達科学部助教授)、伊東康子氏(京都保健衛生専門学校講師)の方々に助言指導を、また豊中市役所から政策推進部企画調整室、建築部住宅対策課(当時)の協力を仰ぎました。
3.調査結果の概要
(1)住宅の更新と住宅市街地環境の変化について(注)占有面積70u未満でかつ目視によりワンルームマンションまたはそれに類すると推測されるものを除外したもの
- 住宅戸数は30年間で倍増している。この増加分は、ほとんど集合住宅の建設と一致する。その集合住宅の大部分は中規模(注)であることから、住宅戸数の増加は、中規模集合住宅の建設が主流であったと言える。
- 市街地環境という点から、敷地分割よりも狭小敷地が統合されていく方向が強く、分割された敷地も最低敷地規模の指導が守られており、一定の水準は確保されている。
- 30年間に半数程度の住宅で建替えあるいは増改築されている一方、建替えの条件を満たさない敷地ではそのままという、二極分化の方向が見られた。これ、先に建築行為がなされた周囲の土地利用により、建替えの選択余地が更に限定される可能性を示す。
(2)居住者の変動について
- 敷地規模の大きい戸建て持家(敷地面積150u以上)では、同居、2世帯居住がよく見られる。
- 中規模(敷地面積80〜150u)の戸建て持家では、同居・2世帯居住という選択はほとんど見られず、子世代の独立後、高齢者となった親世代が夫婦2人または独居をしているという状況が見られる。
- 新たに住居を求める層の受け皿として、戸建て住宅への入居も一定の役割を果たしているが、最も大きい流れは集合住宅である。
- 中規模以上の集合住宅への入居者の半数以上は近隣の地域からの住替えである。一方、マンションからの住替え先は近隣地域・市内・他市へと分かれる。
4.成果(自己評価)と反省点
今回の調査研究で住宅供給の流れと居住者の変化、住替えの様子を結びつけて調べることで、従来見えなかったその動きの実態がかなり立体的に把握できた。
具体的には、@自力で建替え、更新することの困難な敷地が確認された。また、A集合住宅の機能としてこの地域のかつての人口増を支えたと同時に近隣地域や地域外からの住替えの受け皿としての機能が確認された。しかし、こうした集合住宅は中規模のものが大勢を占め、居住者は数年後更に住替えをしている。
一方、Bこうした集合住宅からの住替え先として地域内の中規模の戸建て持家が選択されている例はわずかであった。
従って、地域内住替えという点から見れば、地域内の中規模の集合住宅へ住替えた後、次の住まいを求めて地域を離れる大きな流れがある一方、他地域からこの地域の戸建住宅に住替えてくるという、2つの流れが確認された。
報告書には、こうした住宅ストックと居住者の変化の実態把握を踏まえて、現状に即して考えられる政策を例示的にリストアップしています。
今回のデータからこうした実態が読みとれますが、さらに居住者の選択行動、住まいへの需要等による具体的かつ詳細な居住実態・ニーズを把握するには、居住者・不動産業など、需給双方へのヒアリングが必要です。これは11年度に予定しています。(藤家)