「交通政策における広域連合制度の可能性について」
研究報告書内容の要旨
論題 交通政策における広域連合制度の可能性について
分権一括法が制定され5年経ち本格的に移譲される権限によって自治権の拡大と確定が行われる過程にある。三位一体改革の中で税源移譲も不十分ながら行われようとしている。この地方自治体における制度が変わっていく中で効率性や財政負担をどのようにしていくか考えていかなければならない。
財政が硬直化する中で市民生活に密接に関わる行政サービスは増加する一方である。住民に身近な基礎自治体は、自治権が増大化する時代潮流の中で可能なことは実行していくことが市民に対する責務である。より一層の市民生活の向上や快適性を高めていくことが求められていることから、実現性を考慮した政策立案能力が必要とされているところである。都市交通の問題については、古くから自動車交通の増大による問題が指摘されその解決方策も数々の提案もなされている。しかしながら、日本ではその解決策の多くは実施されておらず都市問題として深刻化し、さらに自動車交通から排出される排ガス増加は地球温暖化の主要因として早急に取り組む問題になっている。ところが、欧米先進諸国では1970年代から地域交通政策の地方分権化が進み、総合的な交通政策を自治体が実施し、ロードプライシングをはじめとするTDM施策や公共交通の改善など自動車交通からの転換を促す施策の展開を行っている。
我が国では地域交通政策に関しての地方分権は進んでいない状況である。道路交通規制に関しては都道府県公安委員会であり、公共交通事業の許認可は国土交通省である。最も住民に近い基礎自治体は、道路の整備と維持管理や自転車対策等が交通に関する事務である。一方では市民や地域からはあらゆる交通に関する要望が寄せられているのも現実である。その寄せられる要望に応えるには交通に関する総合的な権限が必要となる。現状の交通に関する権限は、関係する機関に分散し、総合的な交通行政を行える機関は存在しない。基礎自治体として地域交通政策を行うために必要な総合的な権限を持ち合わせていないことが問題と考える。本研究報告書ではこの問題意識を基礎としてその解決方策を検討することを試みたものである。
本報告書をまとめるにあたっては、大都市圏における基礎自治体における地域交通政策の展開方策に重点を当てて考察を行った。この場合の基礎自治体レベルとは大都市に隣接する人口30万人規模の一般市を想定している。したがって、過疎の地方問題としての交通問題は対象としていない。以上のことにより、豊中市のような都市部の自治体として、増加する自動車交通によって起因する都市問題の解決のための実効性のある行政的方策の可能性を探ったものである。
ここで実効性のある行政的方策とは、現行の地方自治制度上可能な範囲で最大限基礎自治体に総合的な地域交通政策機能を持たせることを意味している。本研究報告では以下の結論を得ることができた。
まず第2章では、最近の都市交通に関する交通状況の概括を行い、自治体における交通政策の必要性を示し、アメリカのISTEA(総合陸上交通効率化法)の制度思想をベースに自治体における総合的な交通政策の規範となる交通基本条例の項目要素を試案としてまとめた。
第3章では、都市部の交通事情から交通問題を広域的政策課題として捉え、地方自治法に規定する広域連合制度について考察を行い、以下の結論に至った。
地域交通政策を実施するためには、その政策実施主体は自動車交通に対する交通規制権限とバスやタクシーなどの公共交通事業者に対する運輸行政権限が必要である。現状ではその2つの権限は、都道府県を含めた地方自治体には実質的には持ち合わせていない。一方、欧米先進主要国では多種多様な交通施策を実施し、自動車交通の増加に戦略的なアプローチを行っている。そのような多種多様な施策を行うことが可能な背景は、1970年代以降進められてきた地域交通政策の地方分権化であった。
この欧米先進主要国の施策事例は、日本においても問題解決に一定の示唆を与えるものの実行に伴う権限が伴わないことから総合的な施策展開として実施が極めて困難であることが挙げられる。そのような日本の自治体の抱える構造的な問題解決のために、地方自治法上の広域連合制度を活用して地域交通政策を実施するための総合的な交通権限を有する交通政策広域連合がひとつの方策であることが明らかになった。
第4章では、交通政策広域連合を前提とした、地域交通システムについて考察を行い、以下の結論に至った。交通政策広域連合によって可能となる総合的な交通施策は、都市インフラとして機能することを目指すものである。地域交通政策を展開するに必要な施策は、交通管制・規制、バスや貨物運送事業等の地域内公共交通事業の許認可そして道路の管理事務である。これらの施策を地域の実情に応じて、都市づくりの観点から交通政策を実行するものである。
本報告で検討したこれらの施策は以下のとおりである。交通管制・規制については地域の求める道路利用に基づき行うものである。同じ交通規制でも、商業地と住宅地では求める道路利用のあり方に差異があることから、規制とあわせた交通施策を実施するものである。また、公共交通事業については、画一的な公共交通事業を求めるだけでなく地域ニーズを反映させる事業創出を促進させることを目指すものである。また、貨物事業運送については、地域環境改善を目的も含めた許認可も必要である。道路管理の観点からは、自転車走行空間の確保のために、道路構造そのものを見直すとともに交通規制を連動させることによって創出することが可能であることが明らかになった。
このような交通施策を総合的に展開できる交通政策広域連合に至るまでの取り組みについても検討を行った。最後に第5章では本報告で得られた結論と今後の課題をまとめた。本報告の総括は、都市圏における基礎自治体における総合的な交通政策を実施するために地方自治制度上の広域連合制度の可能性を提起することであった。
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(主担当:土井)