研究報告
平成15年度(2003)年度の研究活動を終えて

■テーマ

地方自治体における協働型政策評価の可能性と課題

―市民による政策評価指標づくり―


1.研究の背景および問題意識

1−1 豊中市における政策評価の取り組み

 豊中市では平成12年度、公募市民をまじえ、豊中市の目標像(第3次豊中市総合計画)を策定した。例えば、「環境と調和し共生するまち」が大きな目標像(政策)として掲げられているが、このような大きな目標像は、市民、行政、事業者などが取り組むことではじめて達成に向かうものである。そこで、市民、行政、事業者などが豊中市の目標像に向かって取り組むためには、@豊中市の街の現状把握、A具体的な目標設定、B市民、行政、事業者など各主体の実践。という段階を踏む必要がある。この@、Aの段階が、協働型政策評価(以下、協働型評価)である。豊中市では、協働型評価の具体的な流れとして、@目標像の達成状況をはかるためのものさし(まちづくり指標)を作成し、そのものさしで、現状値をはかる、A現状値に対して目標値を設定する、という流れを想定している。(右図)

 協働型評価において、豊中の街が、市民にとって、行政にとって納得できる評価がなされるか否かは、まちづくり指標の質が重要である。

1−2 まちづくり指標の作成方法

 まちづくり指標の作成過程を、市民と行政の関与の度合いから分類すると、「市民主導型」、「行政主導型」、「市民・行政協働型」の3タイプが考えられる。このまちづくり指標により豊中の街が評価されることから判断すると、「市民・行政協働型」が望ましい。具体的な過程として、豊中市では、行政による、ロジック・モデルを活用したまちづくり指標素案の作成に取りかかっているが、市民によるまちづくり指標の作成方法、特に、市民の生活感覚から指標を組み立てる方法については確立した方法がなく、他市事例でもほとんど見られないのが現状である。

1−3 市民によるまちづくり指標の作成の重要性

 まちづくり指標をもとに豊中の街が評価され、その評価をもとに具体的なまちづくりの目標が定められ、その目標に合わせて、市民、行政、事業者などの取り組みが実践に移されるという過程から考えると、まちづくり指標に、市民による、生活者としての意識や日常の生活感覚が、十分に反映されることが必要であることは言うまでもない。

 まちづくり指標は多くの人に理解され、支持されることによって、街の現状を評価する機能、目標を作り出す機能、目標に向かって動かす機能を果たすことになる。そのためには、初期の段階、すなわち豊中市の街の現状を把握するためのまちづくり指標づくりから市民、行政、事業者などが参加することが必要である。また、指標づくりに参加していない人が、指標づくりのプロセスを理解できるような、透明性も必要である。つまり、指標づくりのプロセスを再現できるような手順を踏む必要がある。

2.研究の目的および方法

 本研究は、市民の意識、すなわち市民による、生活者としての意識や生活感覚から、どのような過程によりまちづくり指標をつくることができるのか、あるいは市民の意識からまちづくり指標に至るまでどのような構造になっているのか示すことを目的とする。また本研究は、市民や行政職員と共に行った2回のワークショップを主な研究方法としている。

3.市民の意識をもとにしたまちづくり指標の作成過程

 ワークショップでは、設定したプログラムに沿って、参加者である市民の、生活者としての意識や日常の生活感覚を抽出することを試みた。そして、それらの結果からまちづくり指標を作成することができる可能性を示した。その作成過程を以下に示す。(図2)

@ プログラムに沿って抽出された、市民の意識を、「現状に対する不足・ニーズ・問題点」「現状で達成されていること」「今後の目標」に分類する。

A 市民の意識は地域に密着した感覚であるため、時に、固有名詞の出現や複数の意味に解釈できる抽象的な表現になることがある。そのため一般的な表現に言い換える必要があるが、生活感覚の背景には数多くの根拠の上に成り立っている場合が多いため、この作業はその市民自身が行う。

B 市民の意識からまちづくり指標を組み立てる過程では、市民の意識を機械的に指標化せず、市民と研究者とが共同作業により指標化する。

C 関連性の高い複数のまちづくり指標を整理統合しながら、体系立てて整理する。

上に示したまちづくり指標を作成する過程について、生活者のプロとしての市民の意識をもとに、市民と研究者が共同してまちづくり指標の作成に取り組むことを提案した。

図2 「環境」面での現状に対する市民の意識およびまちづくり指標化

(一部抜粋)

              (伊丹)