平成15年度(2003)年度の研究活動を終えて
研究報告 ■テーマ
都市交通からみた豊中市の政策展開の考察
1. はじめに
昨年度の研究では、基礎的自治体において、総合的かつ自立的に交通政策を策定する仕組みが欠落している現状と政策策定の論点をあげた。本研究は、昨年度の政策策定の論点に対する考え方と政策展開に必要な行政的方策について検討を行った。
2.は昨年度の研究を補足した上で、豊中市において総合的な交通政策の必要性を整理し、それに必要な基本的な方針を検討した。3.では2.を受けて交通政策を実施するのための交通基本条例の必要性の検討と交通政策策定の論点に対する考え方をまとめた。4.においては交通基本条例における項目について検討し整理した。
2. 前年度研究の補足
昨年度研究では、20‐30歳台の市民における公共交通利用の実態アンケート調査と交通に係る各分野の学術的な見解から、基礎的自治体における交通政策の視点を@安全とバリアフリー、A都市の魅力と活性化、B環境保全とした。またこれは国土交通省(道路局)が進める平成16年度道路整備方針で謳う、「活力」、「くらし」、「安全」、「環境」とほぼ同一の考えである。交通を担う都市基盤整備の方針は、概ねこれらの項目を考慮したものになると考えられる。しかしながら、これらの項目は分野別なものでもあり、自治体が総合的に交通政策を展開する包括的な方針に欠けていることも否めないと考える。包括的な交通政策のあり方は、アメリカで1991年に制定されたISTEA(国土交通省訳「総合陸上輸送効率化法」)で行われている政策方針が参考になると考えられる。この法律の政策方針は@安全で効率よく乗り継ぎできること、A異なる交通手段の競争を通じた選択肢の提供、B関係機関との協調と協力、C利用者と専門家による利用者の利便性を向上させる計画策定、D交通政策は地方政府の役割というものである。日本においても最近は、このような観点から計画の策定や事業も行われているが、まだ十分に行われているとは言えないのではないだろうか。また、アメリカの政策を制度が全く異なる日本において、施策を輸入し、制度として機能するかどうか否定的な意見も多いところである。しかし、以下の2点において日本でもその方針を取り込み政策展開が可能ではないかと考えている。
まず一点目が、Cの利用者と専門家による利用者の利便性を向上させる計画策定であるが、実際の利用者及び税負担者である市民の参画を得て政策策定を行う必要性は、今後ますます高まると言えるだろう。そのためには、情報公開による透明性を確保し、合意形成に努めなければならない。そして2点目は地域の交通政策を持つことである。市民の交通行動は9割以上が地域内及び周辺都市への移動であり、日常交通問題は地域の問題として考えれ基礎的自治体によって総合的に展開することがふさわしいと考える。また、政策展開のためには、交通に関連する各機関や事業者との連携が不可欠になり、その連携のための基本的な政策理念と目標なしには、十分な調整と連携が達成できないと考える。したがって、基礎的自治体は市民の日常交通のあり方を決める地域の交通政策を必要とする。
3. 政策策定のための論点の考え方
昨年度は、交通政策を策定する際の論点として、以下4点をあげた。
@生活交通の質を高める
A安全なまちを実現する自動車利用のあり方
B 自動車以外の選択肢の実現
C関係機関の連携
それぞれの論点に対する試論は、@の生活交通の質を高めるということに対しては市民に身近な交通のインフラである道路を、地域コミュニティの再生ツールとして活用することと考える。質を高めるということをハード的に考えると、植栽や装飾などが考えられるが、一定の規模以上の道路でなければ実現は困難である。しかし、地域のためのコミュニケーションの観点から考えると道路の使い方を地域の市民が議論によって、生活交通のための道路のあり方を地域で決めることと考える。道路は市民のコミュニケーションの媒体として活用できると考える。例えば商業地における商業活性のための公共空間−それを道路とすると−を、にぎわい創出のための使い方について地域が決めるというものである。住宅地であれば、安全上問題の多い通過交通排除のための交通規制を求める意思決定を地域が決めるということである。地域がコミュニケーションすることによって、道路の使い方を議論し、一定のあり方を決めて、より地域実情に合うようにすることが、結果的に生活交通の質を高めることとなると考える。
Aの安全なまちを実現する自動車利用のあり方に対しては、上述した地域ニーズに合う交通規制実施のためのルールと共に補助幹線道路未満の生活道路における自動車の速度抑制を行う市独自の道路基準を決めることと考える。
Bの自動車以外の手段の選択肢としては、今後、運輸規制撤廃によって予想される既存の交通事業者以外の参入により公共交通の運営が行われることへの支援である。例えばNPO等が特定地域のバス路線開設のために市が技術支援を行い、交通手段の選択肢を創出することである。考えられる支援内容は、運営に対する補助金も検討の余地はあるものの、基本的には事業創出支援のための技術支援であり、運輸局への法的手続きの助言や需要予測検討などである。
最後にCの関係機関の連携は、道路交通管制の権限は公安委員会のものであり、上述の交通規制を伴うことに関しては、その理解を得なければならず、交通規制等を行う地域別の交通のあり方を合意していくことである。
交通政策によって目指すまちの方向は以下のとおりである。
1)自動車交通からの危険性を低減させることによって、市民が安全に暮らせる。
2)市民が交通に関わることで地域コミュニティを形成する。
3)交通が新しい豊中の魅力を生み出す。
4)多種多様な交通関連機関や事業者との連携をコーディネートできる高い政策形成能力を持った自治体になる。
5)自治体が市民のために地域実情に合う政策理論を学術機関と創り上げる。以上の1)から3)の都市像と4)と5)の自治体の姿勢と考える。
4.政策展開のためのしくみ
責任をもった主体が交通政策の策定を行わなければ、交通政策に係る施策を総合的に融合させることは困難と思われる。その主体とは、市民から都市課題解決の負託を受けた基礎的自治体が最適であると考える。基礎的自治体は、市民のために政策に対する方向性の根拠となるものを、地方分権時代の到来によって求められる。その根拠となるのは、自治体が制定できる条例である。総合的な交通政策のための条例として、仮に交通基本条例とするならば、その条例には、地域交通に対する基本理念と@地域の日常交通のあり方を議論し方針を決定するしくみを確立、A地域の交通基本計画を策定、B交通政策のための交通基礎調査と交通影響評価等を実施して科学分析を行うこととである。平成11年度改正の地方自治法は、国と自治体が対等な立場となって、自治体の主体性をもって地域の独自性を創出し、行政展開することを可能としているので、交通政策をまちづくりの戦略政策に位置付けることが都市の魅力を高めるものと考える。
(土井)