市政研究セミナー
平成14年度

  豊中市政研究所では、調査研究の成果をもとに議論を深める場を持つため、市政研究セミナーを開催しました。
 当日は、研究員による昨年度の調査研究に関する報告のほか、調査研究の過程でアドバイスを受けた研究者の方にも解説・助言をお願いしました。


廃棄物に関する意識・行動調査     
  −「私のコミュニティ」でできる、ごみ減量方策を考える−

9月19日のセミナー
2002年9月19日(木)午後6時30分〜 中央公民館 3階視聴覚室にて
報告者:村上 馨 研究員
助言者:野波 寛さん 関西学院大学社会学部助教授 
     福岡雅子さん 樺n域計画建築研究所
     加藤 進 豊中市環境事業総務課

1.調査研究の概要
 商品や製品は生活するために生み出され、ごみは生活することから生み出されます。だから、ごみ問題は背景となる生活全般から考える必要があります。豊中市民のライフスタイルに合ったごみ減量方策はどのようなものかを考えました。
(1)豊中市民のライフスタイルはどんなもの?
豊中市民の特徴のひとつが低い自治会組織率(今年4月で56.9%)です。このため、市は広報や「ごみの分別と出し方」を各戸に宅配しています(自治会で 配布する市もあります)。ごみについて取組みの進んだ水俣市や碧南市では、組織率90%を超える自治会が活躍しています。そこで市民が地域で持つつながり (自治会、近所づきあい、サークル活動)を切り口に市民のライフスタイルを探り、それに応じた方策を検討しました。
(2)調査の方法と調査から見えるライフスタイル
調査はアンケート中心です。平成12年度は1,624世帯(全体の約1%)を対象に、平成13年度は学生と集合住宅の入居者を対象にしました。また、13年度のセミナー参加者の意見も参考にしました。調査から見えた回答者の特徴はおよそ次のようなものです。

@自分なりのライフスタイルを持っており、そのスタイルはさまざま
Aごみの減量やリサイクルを実行するが、ごみ問題は「個人の問題」と考えている
Bプライバシーを大切にしている
Cドライな近所づきあい
D「友人」や「仲間」といったゆるやかなつながりを多く持ち、自治会もそのひとつ
E集合住宅(全体の60%以上が集合住宅)では、管理人が大きな役割を果たしている
(3)調査から見えてきた課題
@〜Eを大雑把にまとめると、豊中市では「生活の都市化・多様化が進展し、それが地域でのつながりやごみに対する意識・行動にも現れている」と言えます。 ごみの収集・処理は、全市民に対し一律に提供されるサービスであることが原則です。様々なライフスタイルと一律に提供されるサービスがかみ合い、ごみ減 量・リサイクル行動が促進されるには、どうすればいいのでしょうか。 市は、多様なライフスタイルを持つ「個人」としての市民を念頭に、その生活の局面を考えながらサービスを展開する必要があります。調査研究では、日常生活 など生活のいろいろな場面について、市がとる具体的な方法を提案しました。
A 日常生活の局面
@買物行動
買物袋持参など買物時の行動がごみの発生抑制に重要ですが、市民から「事業者の協力がないとできない」という声が、事業者から「コストの問題や他店との競 争があり、単独では取組めない」という声があります。市は事業者同士のつながり作りを支援したり、効果的なPRによって市民・事業者が行動しやすい状況を 作ることができます。
A使用
多くの商品は「部品がない」「修理するより新品を買う方が安い」という状況です。背景として業界の体制や人件費の問題があります。市は業界へ修理・修繕システムの整備を要請するとともに、市民から修理の名人を募り技能を披露してもらう場を設けることが考えられます。
B排出(集団回収、拠点回収、ステーション回収)
集団回収では世話役の負担、回収業者の高齢化が問題です。これに対し、市は積込時にボランティアの協力が得られる仕組を整えて負担を軽くする、集合住宅の管理組合にPRする、団体同士が情報交換や交流を行う場を設定するなどして団体数の増加や活性化を狙うことができます。
拠点回収は拠点数が少ないために場所が遠く、存在が知られていないことが問題です。今後は潜在的な需要の高い小規模集合住宅を重点に拠点を増やす、回収品目を増やす、コンビニなどでPRを行うことが重要です。 ステーション回収は「ごみは出したらおしまい」と考える市民の意識の変革が課題です。この傾向は、ごみを出した人を特定しにくい集合住宅で強くなりがちです。そこで管理人などを通じて指導することが、排出者の責任感を促すと考えられます。
B その他の局面
廃棄物減量等推進員活動の活性化、リーダーやコーディネーターの育成、集合住宅管理組合への説明会実施や、ごみ問題の状況が分かるガイドブックを作成して 説明会や市民の勉強会に役立てることが考えられます。また、事業者に対し学習会や事業者同士の連携を支援することが、環境にやさしい事業者の育成につなが ります。
(4)施策展開の方向性
@市域一律のサービス運用の見直し
 ごみの収集・処理は、全市民に対し一律に提供されるサービスであることが原則と述べました。しかし、減量に努力している人のごみもそうでない人のごみも 同様に収集するのは、公平でないとも考えられます。地区によってサービスの運用方法を変えてもいいのではないでしょうか。つまり、全市域での定期分別収集 に加え、地域コミュニティの状況に応じて住民の意欲・主体性を活かした収集やPRを行うのです。例えば、住民が回収容器とスペースの管理を行う前提で空缶 やペットボトル、トレーを地域で収集したり、コンビニで地域に合わせたPRや情報発信を行うことが考えられます(市内のコンビニ利用者の約7割が「自宅か ら便利な所」を利用するという報告があります)。
実践にあたって、市が地域の状況を細かく把握する必要があります。そのため各担当者が持つ情報を集約・活用すること、その情報を率直に市民に知らせ、ごみ 減量の必要性を分かりやすく説明することが大切です。PRも全市民に一律に行うのではなく、地域の状況に合わせて内容や方法を変えるのも効果的です。ま た、市民が勉強したり、職員が説明する際のツールとしてガイドブックを作成することが、ごみに対する理解を深めるのに有効と思われます。
市役所全体が重要性を認識してごみ問題に取組むことも必要です。市が取組みの先頭に立つ姿勢を示すことが、有効なPRにつながります。

2.アドバイザーのコメント
 樺n域計画建築研究所の福岡雅子さんは「新築マンションの入居者に集団回収などごみについて呼び掛けることが、新しいコミュニティ作りのきっかけになる のでは。」と、関西学院大学社会学部の野波寛さんは「豊中市も名古屋市のように、多少強引でも行政主導の徹底した細分別を実施しては。」と述べました。ま た加藤環境事業総務課長は、ごみ減量計画の概要を説明しながら「可能な部分について提案を活かしたい。」と発言しました。

3.参加者の質問・意見
「地域に資源回収拠点を作ると、世話役の負担が増える可能性がある。リーダーの育成も必要では。」、「ごみ問題に不熱心な人に対し、理由を掘り出して解決 の糸口をつかみ、PRによって底上げすることがごみ減量につながるのでは。」、「出し間違いごみの取残しについてはごみ袋の記名式という前提が必要で、そ のことに関して市民に問いかける必要がある。」、「市は実績をアピールするよりも、集合住宅への説明会などを通じ、住民の立場から考えるべき。」などの意 見が出ました。

4.おわりに
 調査の中でごみ問題は「行政のルールやお願いに市民が協力する」との姿勢があり、市民主体の考えが薄いことに気づきました。原因として、市主導でごみの 収集・処理を行い、市民参加の場や情報が少ないことが考えられます。分別・リサイクルに加えて発生抑制が一層求められる今後、市民の主体性がより重要にな ります。市や周囲に発言する市民だけでなく、個人として黙々とルールに従い行動する市民の主体性とはどんなものかを考えながら、的確な情報の伝え方や市民 参加のあり方を検討していきたいと考えています。

主催:豊中市政研究所・豊中市職員研修所