豊中市の保育所政策の財政的特長と課題


問題意識

近年、われわれに判断が突きつけられている自治体の重要な政策分野の一つに、「保育所政策」がある。保育所政策は、利用者にとって身近で重要な公共サービスとなっているだけでなく、日本社会全体の少子化対策という点からも非常に重要な分野である。

保育所政策の運営をめぐっては、ここ数年、全国の自治体で料金引き上げや公立保育所の民営化など、これまであまり手がつけられなかった側面にもメスが入り始めている。豊中もその例外ではない。このような動きは、自治体の深刻な財政危機が一つの契機となっている。だが本質的な問題は、社会構造は成長社会から成熟社会に変わったにもかかわらず、行財政運営は旧来の構造が今日まで続いてきたことである。

保育所政策は福祉政策の一種であるが、従来、福祉分野に関しては負担面の議論は嫌われる傾向があった。だがこのような風潮が、結果として福祉行政の際限なき聖域化をもたらし、その反動として今、急速に財政再建の流れの中にのみ込まれているようにも感じられる。

このような問題は一つの正しい解が存在する類のものでは決してなく、民主的な過程を経て、最終的に社会の構成員が価値判断を下さねばならない問題である。したがって、われわれは議論を判断するために、少なくとも制度や現状に関する基本情報、それらをめぐる論点などについて把握しておく必要がある。そこで本稿では、豊中市の保育政策の特徴と課題について基本的な情報を明らかにするために、経済・財政学的な側面から検討を行った。

 

論文の構成

本稿の主な構成は以下のとおりである。まず「2.保育政策の現状と変遷」では、保育所制度の概要やその利用状況、施策の変遷などについての簡単な確認、「3.保育所政策の経済学的根拠」では、保育所サービスが政府により供給されることの経済的合理性と財政学的な位置づけについて確認を行った。「4.保育所予算の状況」では、保育所運営費の概況やその負担配分の状況の確認、「5.保育所サービスの生産をめぐる議論」では、保育所運営費の国の基準と豊中市の状況との比較、公立保育所と民間保育所の設置状況、公民の運営費の比較を行っている。「6.受益者負担の状況」では、利用者の保育料負担の国基準と豊中市との比較、他市との比較を行っており、続いて豊中市における保育所利用世帯の課税所得階層の分布を確認している。

ただし、本稿はあくまでも経済学・財政学的側面からのアプローチを行ったものであり、総合的な政策判断のためには、当然、保育の専門分野からの質的側面からの議論と合わせて検討する必要がある。しかし今回の試みにより、個々人が保育政策をめぐる議論を考える際の、判断材料や考察のための視覚を一つでも増やすことができれば幸いである。

 





(主担当:加藤)