研究報告
平成11(1999)年度の研究活動を終えて

とよなか市民の暮らしと意識
3CO(Co-Production Community Communication)を視点に

  1. 調査研究のねらい
     少子高齢化などいくつかのトレンドに対し行政施策が展開されているが、それはあくまで行政から市民(生活)を見るという視点。今回はどういう問題が市民にあるのか、あるいは問題認識されているのか、これまでと逆のベクトルからアプローチする。具体的には、以下のテーマに沿ってアプローチを試みた。
    【研究委員:井上眞理子(大阪女子大学) 緒方由紀(佛教大学) 小柴貴郎(関西学院大学)】


    (1)「福祉社会」(緒方由紀研究委員)
    コミュニティケアの担い手とコミュニティ・サポートシステムの形成
    (2)「情報社会」(本荘泰司)
    インターネットによるコミュニティ形成の可能性
    (3)「環境(ごみ)社会」(小柴貴郎研究委員)
    「ごみ」はなぜ「問題」になるのか


  2. アプローチと検討経過の概要
       それぞれのテーマへのアプローチにあたっては、さまざまな主体者(生活者)が地域社会を担っていくという意味で、その「しくみ」の構築がどうなされようとしているのか、プロセスをみることが重要である。
     市民の認識している問題と行政が認識している問題には、ずれ・温度差があるのではないか。つまり、市民の認識・意味世界という観点から考えると、行政が実施するテキスト的な調査では必ずしも把握しきれていないのではないか。


    ■コミュニティケアの担い手とコミュニティ・サポートシステムの形成
     社会福祉における供給主体の多元性に着目。「地域」という言葉を考えると、地方分権、行革との関係で最近言われるようになったと思う。われわれがここで、「地域」を使うのであれば、それとは異なる文脈で「地域」をとらえていく必要がある。なぜ、「地域」なのか、市内NPOの活動をとおして考えてみる。

    ■インターネットによるコミュニティ形成の可能性
     電子メディアを使うことによって、具体的な相互作用が少なくなっている地域社会で、意味世界のコンテキストがインターネットによって共有されていくというプロセスを見る。学生は100%インターネット等の新しいメディアを使う。コーホートで考えると、2010年の地域社会では、彼らによって電脳コミュニティが成立している可能性もある。身体的相互作用は少ないかもしれないが、新しいツールをとおして地域コミュニティの出現が可能ではないかと思われる。

    ■「環境(ごみ)社会」
     「ごみ」を素材にして市民の認識や意味付けを探求。それを理解する上での文脈(コンテキスト)としては、「衛生」から「環境」という、意味付けが依拠しているコンテキストで考える。たとえば、ごみとは何か。意味付けするときの基準。戦前と戦後ではごみを既定する価値観や生活スタンスが異なっている。


  3. まとめ
     それぞれのテーマの共通軸としては「市民と行政のパートナーシップ」、理論では Co-Production(協働)概念が想起される。現実には行政のアリバイとして「協働」概念が使われている。最近この概念は、行政主導の元にカットバックマネージメントの文脈で使われ、本来の意味をなしていない。⇒市民の側からのCo-Productionがどれほどあるのか探ってみた。
     これからは、公−私の中間領域で「市民のコンテキスト」と「行政のコンテキスト」の相互調整・折り合いの付け方が問題になる。⇒公―私の狭間でどんなダイナミズムが繰り広げられている(きた)のか、事例を通して検討した。
    (本荘)